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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)10885号 判決 1990年5月21日

原告 寺井國男

右訴訟代理人弁護士 柴山譽之

被告 株式会社信用情報センター

右代表者代表取締役 川島喜八郎

右訴訟代理人弁護士 谷戸直久

主文

一  被告は、原告に対し、二二〇万円及びこれに対する昭和六三年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、本判決の確定した日から七日以内に朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞及び日本経済新聞の各朝刊のいずれも全国版社会面に別紙記載の謝罪原告を二段抜き一五センチメートル幅で、表題部を一号ゴシック体、宛名及び被告名を二号ゴシック体、その他の部分を八ポイントの各活字をもって一回掲載せよ。

2  被告は、原告に対し、一一〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告

原告は、鍛圧機械の製作、修理及び販売を業とするものである訴外アサノ総業株式会社(以下、「訴外会社」という。)の代表取締役であり、また、幼稚園から大学院までの教育施設を有する学校法人追手門学院の評議員、理事等の公的立場にもあったものである。

(二) 被告

被告は、消費者信用取引にかかる個人信用情報の収集、保管、照合、調査を業とし、被告と加盟契約を締結している消費者金融機関(以下、「被告の会員」という。)に個人の信用情報を提供しているものである。

2  個人信用情報の提供

被告は、昭和五九年一一月ころ、原告に関する個人信用情報として、左記の情報(以下、「本件情報」という。)を登録し、これを昭和六二年六月から同年一〇月までの間に被告の会員である五社の金融機関に七回にわたって提供した。本件情報は全く事実に反するもので、昭和五九年一一月二六日発行の官報に掲載された、石川県河北郡津幡町字吉倉一二〇番地の株式会社寺井組代表取締役寺井邦雄の破産宣告の情報を、被告が誤って原告の個人信用情報として登録したものであった。

登録氏名 寺井國男(原告)

生年月日 大正一四年一月一六日

勤務先 アサノ総業株式会社(訴外会社)

住所 吹田市高野台二丁目八番八号

情報発生日 昭和五九年一一月

情報の種類 官報

理由(情報内容) 破産宣告

3  責任原因

原告は、被告の右2の本件情報の登録、提供により名誉、信用(以下、単に「名誉」という。)を毀損されたものであり、右被告の行為は、原告に対する不法行為を構成する。

4  損害

(一) 謝罪広告

(1) 訴外会社は、昭和六二年七月ころ、特定地域振興臨時措置法に基づき福岡県直方市において地域活性化のための誘致企業として新しく工場を建設し、約五〇人におよぶ従業員を新規に採用して操業を開始したが、同工場内で必要な機械、備品等につきリース契約を締結しようとしたところ、金融機関から契約を拒絶されたり、金融機関に借入金の申入れをしても拒否されることが相次ぎ、その操業に多大の影響を受けた。これは、被告が本件情報を登録し金融機関に提供していたため、金融機関に原告が破産宣告を受けたという誤った情報が流れ、金融機関内部において、原告及び原告が代表取締役をしている訴外会社に対して一切与信業務をしないという取扱がなされていたためである。

(2) 原告は本件情報を、被告が本件情報を提供した被告の会員からではなく、新工場での事務機器の購入の際に事務機器業者から知らされたものであるが、本件の破産情報のように経済的に破綻しているとの経済的信用にかかる情報は商取引に欠くことのできないもので、迅速かつ広範囲に流布され易く、しかも経済取引が発生するたびに反復して利用され、これが金融機関に開示されれば、その開示された特定の金融機関だけでなく、その関連会社や取引先等当事者の知り得ない範囲にわたり多方面に流布するもので、本件情報はその直接の提供先である被告の会員以外に広く伝播した。

(3) 本件情報は、委託された会社のコンピューター内に入力され、端末のコンピューターでこの情報を得られるシステムになっていたもので、だれでも右情報を得られる状態にあり、しかも機械から機械へと入、出入力されるもので、情報が幅広く伝播し、蓄積される可能性を有しているものであるから、右情報が誤りであることを公の機関を通じて知らせる必要性がある。

(4) 原告は企業経営者であり、その経済的信用情報を日常的に注目される人物であるから、金銭的な賠償のみではその名誉は回復されず、その活動する企業界全体に対して名誉を回復する処置をしなければならない。

(5) 被告は第三者の信用情報を公開することを業とし、利益を得ている企業であるから、誤情報を公開した以上これが誤っていたという訂正情報も謝罪広告の形で公開されなければならない。

(6) 従って、本件情報によって原告が被った名誉毀損は、本件情報の直接の提供先である被告の会員に対し情報の撤回をし、原告に金銭的な補償をしただけでは回復しえず、謝罪広告によって不特定、多数の者に対して本件情報の撤回をし、原告の毀損された名誉を回復しなければならない。

(二) 慰謝料 一〇〇〇万円

本件情報の登録、提供によって、原告が受けた精神的苦痛を慰謝するには一〇〇〇万円が相当である。

(三) 弁護士費用 一〇〇万円

よって、原告は被告に対し、いずれも不法行為に基づき、名誉回復のため請求の趣旨1記載のとおりの謝罪広告の掲載並びに右4(二)、(三)の損害金合計一一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和六三年一一月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1について

(一) (一)のうち、原告が鍛圧機械の製作、修理及び販売を業とするものである訴外会社の代表取締役であることは認めるが、幼稚園から大学院までの教育施設を有する学校法人追手門学院の評議員、理事等の公的立場にあったことについては不知。

(二) (二)は認める。

2  同2及び3は認める。

3  同4について

(一) (一)について

(1) (1)のうち、訴外会社が昭和六二年七月ころ、特定地域振興臨時措置法に基づき福岡県直方市において新工場を建設し、新規操業を開始したこと、その際、訴外会社が新規操業に必要なリース契約について与信業者から契約を拒絶されたことは認めるが、その余の事実は不知。

(2) (2)のうち、原告が本件情報を新工場での事務機器の購入の際に事務機器業者から知らされたことは不知。本件情報が被告の直接の提供先以外に広く伝わったことは否認する。

(3) (3)ないし(6)は争う。

(4) 原告の求める日刊新聞への謝罪広告掲載は、本件名誉毀損の程度及び態様並びにその後の被告の原告に対する交渉過程から考えると、原告の名誉回復の方法としては相当性及び必要性を欠くものである。

ア 被告は原告から昭和六二年一〇月二日に信用情報の開示請求及び本件情報が事実に反する旨の申入れを受けたことから、本件情報が誤りであることを発見し、直ちに原告及び原告代理人の弁護士にその旨を連絡すると共に本件情報を削除し、本件情報を利用した被告の会員に対し情報の削除通知をした。被告は、同時に原告に対して、他に削除通知を必要とする相手があれば申し出るように申し入れたが、原告からは何らの申し出もなかった。

被告は、同月一九日に原告に対し、信用情報調査結果報告書をもって、正式に情報が誤りであったこと、本件誤情報を削除し情報利用先の会員に対し削除通知を行ったことを通知し、被告の謝罪の意思を原告に対して表明した。

イ 被告は、原告と被告会社において交渉を継続することとし、その担当者に被告本社業務部長の杉山雅也と被告代理人弁護士を当て、昭和六二年一〇月二三日付け書面で被告代表者の名で謝罪の意を表明し、同月二七日付け内容証明郵便で被告代理人弁護士の名で謝罪の意を表明するとともに被告が本件誤情報を提供したことについての解決につき話合いを行いたい旨申し入れた。その結果、同年一一月二日に訴外会社において原告と被告代理人弁護士が会談し、被告から、金銭支払いによる和解を希望するが原告の意向は可能な限り尊重する旨を伝えた。

ウ 原告は、昭和六二年一二月一日、被告の本社に訴外会社の常務取締役と称する寺井建夫を伴って訪れ、日刊新聞全国紙三社に謝罪広告を掲載することが前提条件であること、これが容れられないときには事件を新聞にて公表し、刑事告訴及び慰謝料請求訴訟を提起する旨提案し、被告は、日刊新聞への謝罪広告だけは応じることはできないこと、基本的には慰謝料の支払いにて本件を解決したい意向であるが被告において可能な条件であれば検討する旨を伝えたが、話合いは平行線に終わった。なお、その際右寺井建夫から、訴外会社の経営が苦しく、街の金融業者から二億五〇〇〇万円の高利の借入債務があるため、被告の方で金融機関からの借入を斡旋してくれるのであれば、本件誤情報の件の一切を解決してもよい旨の申入れがされたが、被告は、同月一〇日、原告自宅においてこれに応ずることはできない旨の回答をした。その際、原告は被告代表者の公式の謝罪文の交付があれば必ずしも日刊紙への謝罪広告をしなくてもよいが、融資斡旋については再度検討して欲しい旨の申入れをした。

エ 被告は、昭和六二年一二月一六日付け内容証明郵便にて、①新聞謝罪広告に代わるものとして、被告代表者が文書にて謝罪の意思表示をする、②被告が本件情報の削除通知をなした以外の会員で本件情報を利用したものがあれば、原告の申入れにより直ちに情報削除の通知をする、③慰謝料についてはそれまでに提示した二五〇万円を上回る額を支払う、④融資の斡旋には応じることはできない旨の回答をなした。

オ 原告は、昭和六二年一二月二三日付けの内容証明郵便で、以後部落解放同盟福岡県連合会川崎町連絡協議会書記長の向手正及び同常任の政時喜久美の両名に一切を一任する旨を通知してきたため、同月二八日に被告の本社で右向手と会談したが、同人からの申入れは従前の原告の申入れと異なるところがなかったため被告はこれを拒否した。

カ その後も、原告から同様の申入れが何回かされたが、被告がこれを拒否していたところ、原告は、昭和六三年一一月二四日に本件訴訟を提起したもので、本件訴訟提起については、日刊新聞にて大々的に報道された。

以上のとおり、被告は、原告からの情報開示請求のなされたのち、可及的速やかに、本件情報の削除等の措置をとるとともに、原告の名誉回復の措置を講じてきたものであり、原告の名誉毀損に基づく損害に対しては相当額の慰謝料の支払いの意思を有し、その旨の申入れを行ってきた。本件において、原告は日刊新聞紙上に謝罪広告を掲載すべきであると主張するが、原告の本件情報は一般的に公表されたものはなく、被告の会員である五社の極めて限定的な範囲において提供されたものにすぎず、会員は加盟契約で、被告より提供を受けた情報を他に洩らしたり与信判断の資料以外の目的に利用することが禁じられているので、被告が提供した情報は、非会員は勿論のこと情報を請求した会員以外の会員にも提供されることはないのであるから、新聞紙上で謝罪を要する程の名誉毀損には達しておらず、またその後の被告の原告に対する交渉過程での謝罪の態度によって原告の名誉は回復されたといえるから、日刊新聞への謝罪広告は原告の名誉回復の方法としては著しく相当性及び必要性を欠くものである。

(二) (二)及び(三)は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1(当事者)について

(一)  (一)のうち、原告が、鍛圧機械の製作、修理及び販売を業とするものである訴外会社の代表取締役であることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば原告は学校法人追手門学院の理事及び評議員をそれぞれ一〇数年ずつ任されている者であることを認めることができる。

(二)  (二)は当事者間に争いがない。

二  同2(個人信用情報の提供)及び同3(責任原因)は当事者間に争いがない。

三  同4(損害について)

1  謝罪広告について

訴外会社が昭和六二年七月ころ、特定地域振興臨時措置法に基づき福岡県直方市において新工場を建設し新規操業を開始したこと、訴外会社が新規操業に必要なリース契約について与信業者から契約を拒絶されたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一)  被告は、信販業者、家電系メーカーのクレジット会社、銀行系のクレジット会社などと加盟契約を締結して被告の会員とし、個人の取引状況といった信用情報を被告のコンピューターのデータベースに入力し、端末のコンピューターを通じて任意の信用情報を会員に提供しているもので、平成元年一一月現在で、会員数は約八四〇店あった。なお、加盟契約で、会員は被告から提供を受けた情報を非会員に開示することが禁止されている。

(二)  被告は、本件情報を次のとおり七回にわたって被告の会員に提供した。

(1) 昭和六二年六月二二日

提供先 日本信販株式会社北九州営業所

(2) 同日

提供先 同右

(3) 同年九月一日

提供先 三洋電機クレジット株式会社九州支店

(4) 同月一〇日

提供先 シャープファイナンス株式会社福岡支店

(5) 同日

提供先 日本総合信用株式会社北九州支店

(6) 同月一一日

提供先 九州ナショナル株式会社北九州支店

(7) 同年一〇月一三日

提供先 日本総合信用株式会社北九州支店

(三)  訴外会社は、福岡県直方市内で新工場の新規操業を開始するに当たり、竹本某の経営するトータルシステムとの間で新工場に必要な電話やファックスについてリース契約を締結しようとしたり、自動車会社であるオート北九州株式会社から運搬用の車両をローン契約で購入しようとしたが、いずれも訴外会社との間で信用取引をすることはできないと拒絶されるなどの事情が生じたため、原告がトータルシステムの竹本某にその理由について問いただしたところ、訴外会社の代表取締役の原告が破産宣告を受けているためであり、その情報(本件情報)のもともとの提供者が被告であること、トータルシステムは、その提携しているクレジット会社からこの情報を入手したものであることが判明した。

(四)  原告は、自己が破産宣告を受けたことがなかったため、昭和六二年一〇月二日付けで被告に対し、自己の信用情報の登録の有無及び登録の内容の開示請求をしたところ、前認定のとおりの内容の本件情報が登録されていることが明らかになった。原告は被告の九州支店に対し、直ちに本件情報が誤りであると抗議したところ、被告はこれを認め、同月一九日付けで原告に対して、本件情報の登録を抹消するとともに、本件情報を利用したクレジット会社のうち原告から申し出のあった日本総合信用株式会社及びシャープファイナンス株式会社の二社に対し本件情報が誤りであり登録から抹消した旨の通知をしたとの回答をし、その後、被告は、被告から本件情報の提供を受けた全てのクレジット会社に対し同様の通知をした。

(五)  原告は本件情報の事後処理を巡って被告の九州支店との交渉を開始したが、具体的な進展がみられなかったため、昭和六二年一〇月二一日付けで被告の代表者である川島喜八郎宛に内容証明郵便で、本件情報の提供に対し抗議する旨の書簡を送付したところ、同月二三日付けで被告から本件情報により原告に多大な迷惑をかけたことを深く詫びるとともに、今後の折衝を弁護士の谷戸直久に一任した旨の書簡が返信され、同月二七日付けで同弁護士から同趣旨の通知書が送付されてきた。その後、同年一一月二日に同弁護士が原告の事務所を訪れたことから、原告は同弁護士を通じて被告に対し、被告を名誉毀損で告訴したいと考えていること及び原告の名誉回復のために原告に対する謝罪文を全国紙に掲載して欲しいことを伝えた。

(六)  原告は、昭和六二年一二月一日、被告の東京本社に、原告の実弟であり訴外会社の常務取締役で九州の新工場の工場長でもある寺井建夫を伴って訪れ、被告に対し、日刊新聞全国紙三社に、本件情報が誤りであったことを認め原告に対して謝罪する旨の謝罪広告を掲載することを要求し、これが入れられないときには刑事告訴をし、慰謝料請求訴訟を提起することを伝えたが、被告はこの点については後日回答すると答えた。

右交渉の中では、同行した寺井建夫の方から原告に対し、訴外会社の経営が苦しく、街の金融業者から二億五〇〇〇万円の高利の借入債務があるため、被告の方で金融機関からの借入を斡旋して欲しい旨も伝えられたが、この点についても被告は後日回答すると答えたにとどめた。

その後、被告は役員会を開いて、右原告らの要求について検討したが、日刊新聞に謝罪広告をすることも、金融機関に融資の斡旋をすることも拒否することを決定した。

(七)  昭和六二年一二月一〇日、被告代理人の弁護士と被告の営業部長である杉山雅也が、原告の自宅を訪れたところ、再度、原告は日刊新聞への謝罪広告を掲載すること、訴外会社の運転資金が窮迫していたため金融機関からの借入を斡旋することを要求した。その際、被告から原告に対し、相当額の慰謝料を支払う旨の提案がなされたが、原告はその程度の金額では応じられないと答えたため、その場では話合いは打切られた。被告は、同月一六日付け内容証明郵便にて、新聞謝罪広告に代わるものとして、被告代表者が文書にて謝罪の意思表示をすること、被告が本件情報の削除通知をした以外で本件情報を利用したものがあれば、原告の申入れにより直ちに情報削除の通知をすること、慰謝料としてはさらに増額した金額を支払う用意があること、融資の斡旋には応じることはできない旨の回答をした。

(八)  その後、原告は、被告との交渉を部落解放同盟福岡県連合会川崎町連絡協議会書記長の向手正及び同常任の政時喜久美の両名に一任し、その旨を昭和六二年一二月二三日付けの内容証明郵便で被告に対して通知してきたため、被告は、向手らとの交渉を三、四回行ったが、向手らの要求が従前の原告の要求と同じく、日刊新聞への謝罪広告を掲載すること、原告に対し融資の斡旋をすることであったため、被告はこれを拒否し、交渉は決裂した。向手らは原告に対し、原告の要求を被告に容れさせるために解放同盟のゼッケンを付けさせた一〇〇人ほどで被告の東京本社を取り囲んで抗議すべきであると主張したことから、結局、原告は向手らとの委任関係を解消し、その旨を被告に対し昭和六三年一月一八日付けの内容証明郵便で通知した。

(九)  原告は、その後も被告に対して同様の申入れをしていたが、被告の態度に変化がなかったため、被告に対する謝罪広告の掲載と慰謝料を求める訴訟の提起を決意し、昭和六三年一一月二四日(本件記録上明らかである。)、本件訴訟を提起した。原告が本件訴訟を提起したことは、同月二六日付けの朝日新聞、毎日新聞及び読売新聞に掲載され、原告が被告に同音の他人の破産情報を原告のものと誤って流されて金融機関から融資を断られたこと、原告が本件訴訟を被告に対して提起したこと、被告がミスを認め本件情報を削除したことなどが報道された。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上認定した事実を前提として、原告の主張する謝罪広告の当否について検討するに、金銭賠償を原則とする民法のもとにおいては、同法七二三条に基づく名誉回復処分としての謝罪広告は、金銭賠償によっては損害を填補しがたい名誉毀損行為に対する救済の一つとして原状回復処分を認めたものと解釈すべきであるから、謝罪広告を認める時点においてもなお名誉毀損の状態が継続しており、かつ金銭賠償のみによっては救済方法として不十分である等名誉回復処分の必要性がある場合でなければ謝罪広告を命ずることはできないものというべきである。ところで、前認定の事実によれば、被告は、原告から本件情報が誤りであるとの指摘を受けたのち、直ちに本件情報の登録を削除するとともに、被告が昭和六二年六月二二日から同年一〇月一三日までに本件情報を提供した被告の会員の五社のクレジット会社に対して、本件情報が誤りであった旨通知している。しかし、原告が本件情報の存在を知らされたのは、被告から直接に本件情報の提供を受けたクレジット会社からではなく、福岡県内の新工場において、原告が事務機器を購入しようとした際の事務機器業者からであり、本件情報のように経済的に破綻しているとの経済的信用にかかる情報は商取引に欠くことのできないもので、迅速かつ広範囲に流布され易いものであると考えられることに鑑みると、被告の会員以外で他にも本件情報の存在を知ったものがあったと推測され(《証拠省略》によれば、被告と加盟契約を締結し、被告から個人の情報の提供を受けたクレジット会社がクレジット契約を依頼してきた販売業者に対し、これを断る理由として、情報を洩らすことがあり得ると証言している。)、右によれば、本件では、なお名誉毀損の状態が継続しているものと考えられなくもない。しかしながら、一方本訴提起直後、朝日新聞、毎日新聞及び読売新聞といった三大日刊新聞によって、被告が原告と同音の他人の破産情報を原告のものと誤って流したため、原告が金融機関から融資を断られることなどがあったこと、原告が本件訴訟を被告に対して提起したこと、被告がミスを認め本件情報を削除したことなどが一般に報道されたのであり、これによって、本件情報が誤りであったことが広まり、原告の名誉も回復されたものと考えられるうえに、原告あるいはその経営する訴外会社が現在もなお、本件情報を理由として信用取引を拒否されることがあることを裏付ける証拠が存在しないこと(原告の学校法人の評議員ないしは理事としての名誉らが侵害されていることを裏付ける証拠もない。)を併せて考慮すると、現時点において原告の名誉毀損の状態が継続しているとは認め難く、さらに後記慰謝料についての判示も考慮すると名誉回復処分の必要性があるとはいえない。

なお、原告は、金融機関(銀行)からの融資など取引を拒否されたと主張し、原告本人尋問中には右主張に副う供述部分があるが、《証拠省略》によれば、被告と加盟契約を締結する会員には銀行は含まれていないこと、被告の営業部長である杉山雅也は原告との交渉過程の中で、原告から、銀行からの借入がうまくいかないのは被告の責任であると言われたため、本件情報が誤っていたことを訂正するから、具体的な会社名と担当者名を教えるように問うても原告からは何らの回答もなかったことを認めることができ、これによれば、原告が銀行から融資などの取引を拒否された原因が本件情報にあったとはにわかには認め難く、他にその原因が本件情報にあることを裏付ける証拠は全くないのであるから、原告の前記供述部分を採用することはできない。

2  慰謝料

本件は、個人の名誉、信用にかかわる情報を個人に関知しないところで営利事業として売買する会社が過誤により誤情報を流したというものであり、その行為は、個々人の経済活動に致命傷を与えかねないもので(現実に本件では前認定のとおり、原告の経営する訴外会社が本件情報を原因として与信契約を拒否さている。)、信用に基礎をおく取引社会を根本から覆す恐れのあるものであることによれば被告の責任は重大であると考えられ、この点に前認定の本件情報が誤りであったことが判明したのちの被告の対応措置及び原告との交渉過程、その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すれば、本件不法行為によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、二〇〇万円が相当である。

3  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは原告訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行を委任し、相当額の費用及び報酬を支払い、又は支払いの約束をしているものと認められるところ、本件事案の内容、審理経過、結果等に照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ損害として賠償を求めうる弁護士費用は、二〇万円とするのが相当である。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対して、二二〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和六三年一一月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条及び九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河田貢 裁判官 杉江佳治 永谷典雄)

<以下省略>

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